修理したSONY JA3ESだが、その後、使っていると、どうも時間が経つと音が歪んでくる感じがしたので、さらに調べてみると、やはりというかなんと言うか、EFMデコーダやその他サーボ制御、ピックアップ制御なんかをやってる基板のチップ電解コンデンサから液漏れが始まっていた。
とりあえずそれを全部小型アルミ電解コンデンサに交換した。
チップ電解コンデンサを小型アルミ電解コンデンサに交換
その他、ATRAC encode/decodeや制御回路基板のチップ電解も全て小型アルミ電解&新型チップ電解に交換した。
さらに、この当時の機種特有の問題であるレーザー出力部発熱によるレーザー寿命問題を多少なりとも解決するため、レーザー部にクールスタッフを貼ってみた。
金色の部分が半導体レーザー。ここが熱くなる
クールスタッフ(黒いテープ状)を貼る
クールスタッフとは、熱を遠赤外線に変換して放射することにより放熱するというものである。
インチキメーカーが作ってるのではなく、沖電線が作って売っているので、それなりに効果があるのだろうと思われる。
とは言え、こんなテープみたいなものにどれほど効果があるのか分からないが、まぁ何もないよりはマシだろう。
ついでなので、電源回路のコンデンサも大体交換し、さらにオーディオ出力回路部のコンデンサも交換した。
出力オペアンプ用のデカップリングコンデンサはMUSE KZに交換。
パターンを調べてみると、最終出力段では2114Dのボルテージ・フォロアの後にSILMICをカップリング・コンデンサとして使っていることが分かった。
そこで、音質の傾向は変化させず、かつ改良するために、SILMIC IIに交換した。
左:取り外したELNA SILMIC、右:新品のELNA SILMIC II
やはり高いSILMICが使われていたのは出力部のカップリングコンデンサだった。
また、ライン入力部もパターンを良く見ると、カップリング・コンデンサを3つ経てA/Dコンバータに入力されているが、それら3つには中級オーディオ用コンデンサが使われていた。
これを設計した人も、カップリングにはそれなりに良いオーディオ用コンデンサが必要だと思ったのだろう。
DENON DCD-S10IIのような20万円クラスのCDプレーヤだと、全てのコンデンサにSILMICを使うような贅沢なことをしているが、SONYの10万円クラスのESシリーズではSILMICは出力部カップリングのみという最低限の使用、それ以外は録音部のカップリングに中級のオーディオ用コンデンサを使用、そしてアナログ回路電源デカップリングには低級オーディオ用コンデンサと、コストを考えて使用しているようだ。
出力カップリングは最新のSILMIC IIに交換し、かなり熱くなるくらい電気を消費しているオペアンプ部のデカップリングコンデンサを低ESRのMUSE KZに交換したので、音質もそれなりに向上しているハズである。
また、問題だった時間が経つと音が歪み始める症状はなくなった。これは多分レーザー出力&EFMデコード等の回路のコンデンサが液漏れしてダメになっているところへ、EFMデコードLSIが熱くなるので、それで熱せられたりして性能が低下していたせいではないかと思われる。
とにかく今までの経験からして、90年代のチップ電解コンデンサはみんな液漏れしてしまう。
この感じからすると、ソニーサービスでピックアップを交換したりして何とか生き延びている他のJA3ESやJA50ES等も、みんなダメになってきていることだろう。
[オマケ:オシロスコープの違いによるアナログ信号波形表示]
JA3ESのRF信号のオシロスコープによる測定だが、手元にAgilent 3062Aとhp 54645Aという2つのオシロスコープがあるので、折角なので比較してみることにした。
どちらもデジタル・ストレージ・オシロスコープであり、Tektronixのデジタル・フォスファのようなアナログ・オシロっぽく表示する機能はないため、この手の波形の観測は苦手である。
また、Agilent DSO3062Aは普及機(15万円くらい)ではあるが最新機種であり、hp 54645Aは中級機(50万円くらい)だが10年くらい前の機種である。
では早速波形を見てみよう。
JA3ESのRF信号アイパターン@Agilent DSO3062オシロスコープで測定
JA3ESのRF信号アイパターン@hp 54645Aオシロスコープで測定
これはMD表面の反射をレーザーピックアップで取得した波形である。
CDやMDはデジタルだから1か0で記録されているのだから、矩形波で取り出されると思うところだが、実際にはこのようにアナログ的な波形として取り出される。
CDやMDではEFM変調により0と1がある程度均等になるように変換されて書き込まれる。
そしてその0,1の間隔は3T~11T (1T=230ns)の間隔で置かれる仕組みになっている。
上の図では左から1メモリ分のところでトリガをかけているので、波形の山の最低間隔は3T=690ns (横軸約1.4メモリ分)となっているのが上の図で分かる。
ちなみに、横軸1メモリが500nsである。
それ以外の波形ごとの間隔も1T=230ns(横軸メモリ約半分)の間隔で並んでいる。
理論上はこの波形は毎回同じところをトレースするハズであるが、実際には録音時&再生時のディスク回転のムラ、ディスクの焼け具合、ピックアップでの読み出し具合等により、読み取った信号には振幅や時間的なゆらぎ(ジッター)が生じてしまう。
このズレが大きくなりすぎて、隣の波形との中間位置にまでいってしまうと、どちらだか分からなくなるため、読み取りエラーが生じることになる。
これを見る限り、大体は判定ミスはしないような位置にあるようだが、結構ブレているのが分かると思う。
このように、CDやMDのようなデジタル機器は、案外ピックアップでの読み取りの段階で既に完璧なものではないことが分かる。
そのため、どれくらいの確率で同じ部分を通っているのか、またどれくらいズレているのかを、このようにオシロスコープで観測して確かめるのである。
ぱっと見hp 54645Aの方が線がはっきりしていて分かりやすいように思えるが、別に1回1回の線をはっきり見たいわけではなく、どれくらいの割合で左右にズレが生じているのかが知りたいのであるが、それはちょっと分かりにくい。
その点Agilent DSO3062Aの方は濃淡っぽく表示されているため、どれくらいの割合で左右へのズレが生じているかが分かりやすいように思える。
またhp 54645AはVector表示にすると全く観測できなかったのに対し、Agilent DSO3062AはVectorでもDotでもちゃんと表示するので、やはり最新機種は何気に良くできているなと思った。
デジタル・ストレージ・オシロで見たMDのRF信号のアイパターンの比較対象がないので、これが良いのかどうかいまいち分からないが、そんなに判定できないほどひどいジッタではないようなので、まぁ悪くはないのではないだろうか。