ED Beta復活作戦5(ノーマルトラック音声編)

ED Betaのノーマルトラック音声修理についてである。

これは結構手こずった。
原因は意外なところにあったのだ。

まず、症状についてだが、最初ノーマルトラックの音声が全く録音されなかった。

かすかに録音されるならともかく、完全に何も録音されないのであった。

ヘッドはアルコールを付けた綿棒で何度も掃除してあるし、クリーニングテープも何回も走らせてある。

で、色々と調べながら録画しまくっていると、どうも左チャンネルのみ、録音直後に2秒くらいすると音が段々と大きくなり、少し録音されるようになってきた。

と言っても、一番大きな音で-20dBくらいなので小さな音だが。

その後、5秒後くらいにはまた音量が小さくなり、音量最大にしてかすかに聞こえる程度にしか録音されていない。

これは一体どういうことだろうか?

というわけで、とにかく徹底的にノーマルトラックの録音再生回路を調べることにした。

よくよく調べると、Beta hi-fi用基板から録音する音をモノラルに変換した音声がノーマルトラック録音再生回路に行っていることが分かった。


録音用音声信号をオシロスコープで観察しているところ。

オシロスコープで見る限り、問題なく録音すべき音声信号はBeta hi-fi基板から来ているようだ。

やはりこのノーマルトラック録音再生回路のどこかが調子悪いのではないだろうか。

しかも、録音動作をすると、最初だけ少し録音できて、すぐに録音ができなくなっていくということは、録音動作直後に信号がそのように変化しているハズである。

というわけで、この録音回路の部分の回路図まで書いて行き、徹底的に調べてみた。

そこで、まずおかしい部分を見つけた。

録音用交流バイアスを音声信号にプラスする部分にテストポイントがあるが、最初見たときは、

のような信号だった。

なんだがいびつな形のバイアス信号だな縲怩ニ思いつつ、とりあえず記録していくが、その途中で同じ部分をもう一度見てみると

このように、信号の形がきれいなサイン波になっているではないか!

周波数も67kHzから60kHzになっているし、P-Pも大きくなっている!

これが原因か!

と喜んだものの、やはりこのきれいなバイアス信号のときも録音状態は変わらない。

何にしてもこのようにバイアス信号が時々おかしくなるのはどこかの接触不良かなにかだろうと思い、バイアス回路にあるリレーの接触不良が疑われた。

これは、全トラック消去ヘッドへの信号をON/OFFするためのリレーだが、単純ではなく、OFFのときも同じバイアス発振させるために、消去ヘッドOFFのときは、消去ヘッドにみたてたコイルに信号を切り替える仕組みになっている。

多分これが接触不良なのだろうと思い、ソニーに部品を注文した。(同じリレーを調べたが、どこでも入手することはできないようだった)


ソニー純正部品のリレー


このシールドされた部分がBIAS発振回路。リレーが見える。


左が外したリレー、右が新しいリレー

同じ部品のハズだが、実際には別のものに変更になっていた。

メーカーがomronからMatsushitaに変更になり、いわゆるメカニカルリレーから、シールドタイプに変更になっていた。

これに交換後、バイアス発振波形は変な発振になることはなく、安定したが、やはりそれでも録音自体は改善されなかった。

ノーマルトラック録音再生回路の全ての電解コンデンサを新品に交換し、ハンダクラックもなくなるように半田付けしなおしたが、全く改善が見られなかった。


ノーマルトラック録音再生回路

この回路を見ると、ICが2つ見えるが、これはSANYOのLA7297というICで、ビデオのノーマルトラック録音再生専用のICだ。電圧バージョンによりいくつかの種類があり、これは9V用のタイプとなっている。

これを調べていて、まず設計ミスを発見した。

録音時にこのICに録音をするときに1(5V)を入れるようにしてあるピンがある。

このPINには5VのCMOSやTTL信号を入れることを想定しており、1と認識されるためには、3.2V以上の電圧をかけろ、とデータシートに書いてあった。

・・・が!録音動作になっても微妙にこれより電圧が低く、3.15Vくらいが入っていた。

これは、録音時にはDTC144というデジタルトランジスタをOFFにして、コレクタ部分に抵抗で9Vから5Vくらいに下げられた電圧が作られるようになっている。

そこの部分に22kΩの抵抗をつないでLA7297のREC_ON端子に入るようになっているのだが、LA7297のREC_ON端子の入力インピーダンスが案外低いようであり、これだと電圧降下が生じて、3.15Vくらいまで下がっているのであった。

0.05Vの差なので普通に動いているようだが、一応データシートの最低電圧を下回っているので、これは回路の設計ミスであろう。

もしもLA7297の入力インピーダンスが十分に大きければ、約5Vが入力される用に抵抗値が設定されているので、設計した人は約5Vが入るつもりで設計したのだろう。

データシートにはREC_ON端子に流れる電流まで書いていないので、ソニーの技術者が机上で設計した結果なのだろうが、やはり電子回路はちゃんと動かしてみて各部の電圧を調べたりしないとダメだという良い例だと思う。

こういうところがハードウェアがソフトウェアとは違うところだ。

データシートだけを見て設計では完全な設計はできないのだ。

ともかく、その部分の抵抗値を勝手に変えて、録音時に4Vくらいが入るようにしてみても、やはり何の改善も見られない。

一応録音動作には入っているようで、REC Out端子からは録音用の音声信号が出力されている。

ALC回路用のコンデンサにも、音量が変化すると、ちゃんと録音レベル自動調整用の電圧変化が生じていて、別に問題はない。

交流バイアス信号と録音信号とは抵抗とセラミックコンデンサを介して接続されていて、ちゃんとバイアス+録音信号になった波形がオシロでも観察され、問題ないようだ。

後は録音・再生時にヘッドの信号切り替え部分がおかしいんじゃないかくらいだが、これも回路を調べてみて、その切り替えをやっているトランジスタも交換してみたが、改善されない。

ん縲怐Aもう一体どうなっているのだろうか?

オシロスコープで見る限り、LA7297は壊れていないように見えるが、録音用出力信号の振幅などがおかしい可能性もないとは言えない。

全ての電解コンデンサは交換済み。全てのトランジスタも交換済み。バイアス回路は安定して交流バイアスを生成している、となると、もう残されているのはLA7297しかない!

・・・が!このICはどうやら調べた感じどこでも売っていないようなので、仕方なくこれもソニーに直接注文をした。

ソニーサービスで調べた結果、IC単体で注文できるとのことで、2個注文してみた。


左上がハズしたIC、右上が新品のIC

このICも2つ(ステレオなので2つ)とも新品に交換して試してみると・・・!!!

なんとダメw
全く改善されない。

やはりこのICの故障でもなかったのであった。

もうこうなったら分からない。

何しろ、ノーマルトラック録音再生回路の全てのコンデンサは新品に交換済み、全てのトランジスタは交換済み、さらにICも交換済みで、調子の悪かったバイアス回路のリレーも交換済み。

後は考えられるのは抵抗くらいだが、オシロスコープで信号を見る限り、動作は正常だ。

こりゃもう考えられるのはヘッドだけだ。

ヘッドのコネクタ部分の接触不良じゃないか?と思い、接点復活材を吹き付けて掃除してみるが、全く症状は変わらず。

もうこりゃお手上げだな〜。と思いつつ、ヘッドをよくよく見てみる。

一見きれいだが・・・

ん?
なんか微妙に表面が曇ってるように見えるが・・・

というわけで、綿棒にアルコールをつけてで徹底的に掃除する。

が、そんな簡単にこの微妙な曇りが取れるはずもなく、何本もの綿棒を使い、延々10分くらい掃除をし続けると、少し曇りが取れてきたようだ。

これで録画してみると・・・!!!!!

なんと左チャンネルが結構な音量で録音されているではないかっ!!!!!
右チャンネルもかすかに録音されている!!!

ヘッドの汚れが原因かっ!!!

しかしこれは並の汚れではない。

多分、相当長い間、恐らく数年とか、もしかすると10年以上使われていなくて、その間に湿度などで微妙に結露して、そのたびにヘッドの表面に僅かに腐食が生じて、それによりヘッドタッチが悪くなっていたものと思われる。

その後も徹底的に掃除しまくったところ、左チャンネルはほぼ正常なところまで戻り、右チャンネルは左チャンネルよりは少し音が小さいものの、ほぼ正常範囲にまで録音されるようになった。


ノーマルトラックの再生レベル

しかしこれはヘッドを交換しないとダメだね。

回転ヘッドのドラムにも微妙に腐食が見えるので、まだ部品がある(?)今のうちに全ヘッドを交換してしまうことにしよう。

ビデオのヘッド交換はヘッド切り替えタイミング調整やテープパスの調整などが必要になるので、自分でやるのはほぼ不可能。

カセットデッキのようにアジマス調整だけでは済まない。

そのため、最後の仕上げとして、ソニーサービスに、全ヘッド交換を依頼して、このビデオの最終仕上げとすることにする予定だ。

それにしても、ヘッドの汚れで全く録音できなくなるなど、長年テープレコーダーを使ってきてもそんなことはなかったので、まるで気づくことができなかった。

まぁ、おかげでバイアス回路のリレーの接触不良は見つけられたのと、コンデンサ交換したのは良かっただろうが。

ついでに、ノーマルトラック録音再生回路のある基板の全電解コンデンサを交換しておいた。

左側は映像の信号切り替え回路などになっている。

結論は、ありえないほどのヘッドの汚れだったが、目で見てもすぐには分からず、症状からも汚れで僅かにも録音されず、さらに録音音量が次第に大きくなっては小さくなるなどの症状からヘッドの汚れと判断するのは難しい。

ヘッドの汚れでこうなることもあるという良い勉強になった。

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